大阪地方裁判所 昭和35年(ワ)3429号・昭33年(ワ)585号 判決
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〔判決理由〕二、そこで訴外森下栄助と訴外益子忠吉、被告森山、同井上との間の各賃貸借契約が一時使用の目的のためであることが明らかな場合に該当するとの原告等主張の当否を明らかにする。
<証拠>を総合すると以下の事実が認められる。
訴外森下栄助は戦前から大阪市浪速区大国町五丁目一七番地の一の土地(換地前の土地)を所有していたが、戦災で地上家屋がすべて焼失したため昭和二一年頃から親戚関係にある訴外岡本宗に右土地の管理をさせることになつた。当初は右土地を他人に貸さず、自分で使用しようと考えていたが、当時本件換地前の土地を含めて付近一帯が都市計画による区画整理事業の対象となり特に国道二六号線が拡張されるとの話があり、大阪市当局に確めたところ、区画整理実施の計画はあるが、すぐには実施しない予定であるとの回答を得たので、大阪市の復興の為に都市計画実施まで被災者に利用させても良いと考えるようになつた。そこで、森下は管理人岡本に対し、都市計画による区画整理事業の着手(その日時については後に認定する)あるまでに期間を限り、若しくは所有者が自ら土地使用の必要を生じた時は土地を返還すべき約定により、被災者に対しその応急仮設の居住用施設に供する目的の限度内において暫定的に賃貸をしても良い旨指示した。昭和二二年一月頃、戦前より右土地隣接地に居住しており戦災で居住家屋を喪つた訴外益子忠吉が、岡本に対し右士地のうち別紙第一目録(三)(五)の部分を含む北東端及び中央部東側部分の賃借を懇請し、右両者間に都市計画による区画整理事業の着手までを期限とし所有者訴外森下が自ら土地使用の必要が生じたときは直ちに明渡す旨の約束の下に仮設住宅建設を目的とする賃貸借契約が成立した。また別紙第一目録(一)記載の土地を含む東南端の部分については、訴外赤坂某が同様にして同趣旨の賃借権を取得していたところ同月頃訴外益子が右赤坂より右賃借権の譲渡を受け岡本の承諾を得た。岡本は右の賃貸借契約の締結並びに賃借権譲渡の承諾に際し都市計画による区画整理実施の時には直ちに土地を明渡す旨約定すべきことを求め益子もこれを了承し、特に確定した契約の存続期間は定めなかつた。益子は建築業を職業にしており、右土地を借りると直ちに大阪府より戦災地跡復旧仮設建築物建築許可を受け、当時府が被災者に給付していた仮設住宅建築資材を使つて木造瓦葺の仮設住宅の建築をなした(別紙第二目録(一)(三)(五)記載の建物)。右建築許可申請に際しては建築主が大阪府知事に対し都市計画による区画整理実施の際には無条件で府に対し土地を明渡す旨の誓約書を差入れ、これに土地賃貸人の建築承諾書を添付することが必要であつたが、訴外岡本は訴外森下の許諾を得て右承諾書に土地所有者に代理して承諾の押印をした。訴外益子が右建築に着手して間もないころ、訴外岡本が建築中の建物が瓦葺の仮設住宅であることを目撃し「そんなごついものを建てたらあかんぜ。」と異議を述べたところ、益子は「いつでも退くから勘弁してくれ」と答えそのまま建築は進められた。益子は仮設住宅が完成すると同時に昭和二二年一〇月頃別紙第二目録(一)および(五)記載の建物を被告池田、同森島に売却し、自らは別紙第二目録(三)記載の建物に居住した。
被告森山良一は、昭和二二年二、三月頃前記土地のうち別紙第一目録(二)の部分及び(七)記載の土地部分を含む西南端の土地の賃借を申入れ、岡本はこれを承諾し、都市計画による区画整理実施までとの存続期間を定め仮設の住宅建築を目的とする賃貸借契約を締結した。同被告は右各土地にいわゆるバラック住宅を建築し、そのうち別紙第二目録」(二)記載の住宅を昭和二三年三月頃被告池田にその敷地賃借権とともに売却した。
被告井上邦朗は昭和九年頃より土地外にあつた訴外森外森下の家屋を賃借していたが戦災に会い右家屋が焼失したことから訴外森下代理人岡本宗に別紙第一目録(六)記載の土地を含む南側中央部の賃借を懇請し昭和二一年八月頃都市計画による区画整理実施までを期限として右土地を借り受け右地上に大阪府より支給された仮設住宅用資材を用いて建坪約七坪(23.14平方メートル)の木造バラック住宅を建築した。
以上の結果、昭和二二年八月当時浪速区大国町五丁目一七番地の一(換地前の土地)の用益の状況は、別紙第一目録(一)記載土地を含む東南端部分及び同(二)記載の土地は被告池田、同(三)の土地を含む東北端部分は訴外益子、同(五)の土地を含む東側中央部は被告森島、同(六)の土地を含む南側中央部は被告井上、同(七)の土地を含む西南端部分は被告森山が各賃借し、それぞれ地上建物に居住するものであつたが、同月五日原告等代理人松川勝一は右土地の所有者森下から土地建物はいずれも区画整理の暁には収去せらるべき暫定的なものであるとの説明を受け更に被告池田、同森島、同森山、訴外益子を順次訪ねて区画整理実施の時には明渡す旨の確認を得たうえ、右土地を時価である一三万円で買受けた。その後も昭和二二年一〇月一日被告森山から、昭和二二年一二月一一日訴外益子から右明渡約束を再確認する書面の交付を受け、同月三一日被告井上から、昭和二四年一月一六日被告池田、同森島からそれぞれ書面をもつて都市計画による区画整理の実施又は道路拡張工事実施を以て土地賃貸借の終期とすること、右区画整理施行後の換地先については賃借権の主張をしないものとすること、地上建物は借地人において取除くことの確約を得た。(右各書面には訴外松川勝一と各被告との間に賃貸借契約をしたかの如き記載も見られるが、右各書面をもつて従前の契約を解除し新たな契約を結んだものと見るべきでなく、従前から存在した契約の内容の確認と賃料等一部契約内容の改訂をなしたものと解すべきである。)
その後昭和二四月三月一日前記土地につき大阪都市計画浪速区復興土地区画整理事業に基づく仮換地処分の指定がなされ、昭和二八年には本件土地付近の国道二六号線の拡張工事がなされ、右拡張工事を機に原告等代理人松川勝一は被告等に対し口頭をもつて明渡を請求し、翌昭和二九年二月以降の賃料の受領を拒絶するに至つた。
以上の各事実が認められ、<証拠>は措信することができない。そして以上の認定事実によれば、本件換地前有者訴外森下栄助との間に訴外益子忠吉が締結した別紙第一目録(三)(五)記載の土地を含む北東端及び中央部東側部分の賃貸借契約、被告森山が締結した別紙第一目録(二)記載の土地及び(七)記載の土地を含む西南端部分の賃貸借契約並びに被告井上邦朗が締結した別紙第一目録(六)記載の土地を含む南側中央部の賃貸借契約はいずれも右賃借土地につき近い将来にほぼ確定的に予測された都市計画による区画整理事業が実施されるまでを存続期間と定めたことが認められるのであり、各地上に建築された建物が仮設住宅あるいはバラックであり、被告井上所有建物以外は根本的な改築もなされず現在に至つていること、区画整理による道路拡張工事がなされた昭和二八年頃賃貸人から明渡請求がなされ以後賃料の授受が全くなされていないこと、契約の当初において権利金の授受がなされたとの証拠も全く認められないこと等を併せ考えると一時使用の為借地権を設定したこと明らかなる場合に該当する。(なお、別紙第一目録(一)記載の土地を含む東南端の部分については、既に説示のとおり訴外益子が直接賃貸借契約をなしたものではなく、訴外赤坂某との契約に基く賃借権を森下栄助代理人岡本宗の同意を得て右益子が譲受けたものであるが、前記認定の諸事情からすれば、右土地賃貸借契約についても一時使用目的を容易に推定することができ、これを別異に解すべき理由は何ら存在しない。)また成立に争いない甲第九号証並びに被告井上邦朗本人尋問の結果によれば昭和二五年七月本件土地南側に国道二六号線に至る道路が拡張された結果被告井上の当初建築したバラック住宅の一部が削り取られ、被告井上はこれを機に右バラック住宅を取毀し別紙第二目録(六)記載の木造瓦葺中二階建居宅を新築した事実が認められるが、<証拠>によれば右改築は原告等に全く無断で為されたことが明らかであるから右改築の一事をもつて前記一時使用目的の認定を覆すに足りる事情となすことはできない。(日野達蔵 露木靖郎 北野俊光)